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「香港ノワール」の記念碑的作品。何よりも全体を通してテンポがいい"娯楽作"。

男たちの挽歌 dvd.jpg男たちの挽歌 1986 人物.jpg
ティ・ロン(狄龍)/レスリー・チャン(張國榮)/チョウ・ユンファ(周潤發)/レイ・チーホン(李子雄)
男たちの挽歌 <日本語吹替収録版> [DVD]
男たちの挽歌 1.jpg 香港・三合会の幹部ホー(ティ・ロン)は闘病中の父と学生の弟キット(レスリー・チャン)の面倒を見ていたが、弟が警官になる希望を持っていることで病床の父から足を洗うよう頼まれる。了解したホーは、次回の台湾への贋札の取り引きを最後に、闇社会から足を洗おうと決意する。しかし、取り引きは密告によって警察に知られており、同行した後輩シン(レイ・チーホン)を逃し、ホーは自首することに。その間、香港では父が陰謀によって殺され、そのことでキットは尊敬する兄が三合会の組員と知る。一男たちの挽歌4.jpg方、ホーの親友マーク(チョウ・ユンファ)は報復のために乗り込んだレストランで裏切者を皆殺しにしたものの、足を撃たれ負傷する。数年後、ホーは出所するが、今では警察官になり結婚もしているキットから、父親の死の責任とマフィアの兄を持つことから出世の出来ない不満をぶつけられた上に追い出され、親友マークは負傷で自由の利かない体になったことから雑用以下の扱いを受けるほど落ちぶれていた。そして元は後男たちの挽歌3.jpg輩だったシンが三合会で権力を握るようになっていた。ホーは弟と和解するためにも堅気となり、穏やかに暮らそうとするが、周りはそんな彼を放ってはおかなかった。男として失った誇りを取り戻したいマークは旧友に協力を求め、シンも自分に力を貸すよう強要する。しかしシンは自分の敵となる人物たちの粛清を始め、手始めに組長のユー(シー・イェンズ)が殺された。現状を知ったホーは弟との絆、親友との友情のためにマークと共に銃を手に取る―。

男たちの挽歌039.jpg ジョン・ウー監督の1986年作品で、「香港ノワール」とも呼ばれる新しい流れを作った記念碑的な作品です(因みに、この作品をはじめ、ジョン・ウーなどが監督・製作した香港製犯罪映画は、アクションではハリウッド製アクション映画との親和性があるが、ギャング映画としての基本的傾向は「フレンチ・フィルム・ノワール」に近いとされている)。第6回「香港電影金像奨」の最優秀作品賞・最優秀主演男優賞(チョウ・ユンファ)受賞作で、第23回「金馬奨」の最優秀監督賞・最優秀主演男優賞受賞(ティ・ロン)も受賞しています。興行的にも成功し、「男たちの挽歌Ⅱ」('87年)、「アゲイン/明日への誓い」('89年)とシリーズは計3作製作されています(チョウ・ユンファは第2作「男たちの挽歌Ⅱ」ではマークの双子の弟のケンの役で出ているが、「アゲイン/明日への誓い」(タイトルに3と付けられていることがあるが、時間的には第1作目よりも前にあたる作品)では再びマーク役で出ている)。

 この映画の製作のきかっけは、香港映画界で独自の路線を貫き通したことでジョン・ウーとティ・ロンが台湾に追われることになり不遇の生活を送っていたところ、友人であるツイ・ハークが「もう一度、香港で映画を作ろう」と台湾に出向いて香港映画界に復活させたことにあるとのことです。

「マトリックス」図1.jpgチョウユンファ 男たちの挽歌.jpg スローモーションを多用した銃撃戦は、サム・ペキンパーの「ワイルドバンチ」('69年/米)の影響を強く受けたと言われており(さらにセルジオ・レオーネや深作欣二からも多大な影響を受けているとのこと)、また、逆にこの作品が後世の映像作家に与えた影響も大きく、「マトリックス」シリーズのウォシャウスキー兄弟もジョン・ウーのファンであることを公言しています。そう言えば、チョウ・ユンファがロングコートとサングラスのスタイルで、二丁拳銃を構えて敵陣に斬りこむ姿は、「マトリックス」('99年/米)でのキアヌ・リーブス演じる主人公の姿と重なります。

「マトリックス」('99年/米)

 何よりも全体を通してテンポがいいです。友情や兄弟愛がモチーフとなっていますが、「情」を描くシーンを長々と引き延ばさず、さっと次のシーンに移ります。それでいて、その「情」の部分が描けていないかというとそんなことはなく、アクションシーンと拮抗する重みをもって描けています。この監督、ハリウッドから声が掛かったのも分かる気がします。
      チョウ・ユンファ(周潤發)       レスリー・チャン(張國榮)
英雄本色 周潤發.jpg英雄本色 張國榮.jpg この作品は、チョウ・ユンファ(周潤發)の出世作とされていますが、レスリー・チャン(張國榮)もよく知られるようになったのはこのあたりからで、その後二人とも、有名監督の作品に次々と出演するようになります。さらに、演技力とアクションにより武侠映画のトップスターとして活躍するも、一時低迷していたティ・ロン(狄龍)が復活を遂げた作品でもあります。

男たちの挽歌 1986 8.jpg英雄本色 狄龍.jpg 「香港電影金像奨」の最優秀主演男優賞を受賞したチョウ・ユンファと、「金馬奨」の最優秀主演男優賞受賞を受賞したティ・ロンと、どちらが良かったかというと微妙ですが、個人的にはティ・ロンに軍配を上げたいと思います。すっかり卓越した演技派俳優になったように思いますが、弟役のレスリー・チャンとカンフーでじゃれ合うシーンに、かつて武侠映画で見せたアクションの片鱗を窺わせます。
ティ・ロン(狄龍)

ツイ・ハーク(徐克)/レスリー・チャン(張國榮)
英雄本色 徐克.jpg ジョン・ウー監督が台湾警察の警部役で出ているほか、製作総指揮のツイ・ハーク(「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」シリーズなどの監督でもある)が、キットの恋人が実技試験を受ける音楽学院の審査員役で出ていて(まあ、ツイ・ハークはもともと俳優としてのカメオ出演も多い監督だが)、オーバーアクション気味の演技をしているのに遊び心を感じました。凄絶なマフィア社会を描いた作品ですが、基本的にはエンタテインメント作であると思います。


チョウ・ユンファ(周潤發)in メイベル・チャン監督「誰かがあなたを愛してる」('87年)/アン・リー監督「グリーン・デスティニー」('00年)
秋天的童話1.jpg グリーン・デスティニー 02.jpg
レスリー・チャン(張國榮)in ウォン・カーウァイ監督「欲望の翼」('90年)/チェン・カイコー監督「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年)
欲望の翼01.jpg 覇王別姫 張國榮.jpg


男たちの挽歌 pos.jpg英雄本色 2.jpg「男たちの挽歌」●原題:英雄本色(英:A BETTER TOMORROW)●制作年:1986年●制作国:香港●監督・脚本:ジョン・ウー(呉宇森)●製作総指揮:ツイ・ハーク●製作:ウォン・カーマン●撮影:ウォン・ウィンハン●音楽:ジョセフ・クー●時間:97分●出演:チョウ・ユンファ(周潤發)/ティ・ロン(狄龍)/レスリーエミリー・チュウ.jpg・チャン(張國榮)/レイ・チーホン(李子雄)/ケネス・ツァン(曾江)/エミリー・チュウ/ティエン・ファン/シー・イェンズ/カム・ヒン・イン/シン・フイオン/レウ・ミン/ジョン・ウー(呉宇森) /ツイ・ハーク(徐克)●日本公開:1987/04●配給:日本ヘラルド映画(評価:★★★★)


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ウォン・カーウァイ監督がそのスタイルを確立した作品。且つ、主要出演者が全員トップスターになった作品。
欲望の翼 vhs_.jpg欲望の翼0.jpg 欲望の翼 dvd.jpg
欲望の翼【字幕版】 [VHS]」「欲望の翼 [DVD]

欲望の翼00.jpg 欲望の翼 title.jpg サッカー競技場の売り子スー・リーチェン(マギー・チャン(張曼玉))は、ある日突然遊び人風の客ヨディ(レスリー・チャン(張國榮))に交際を迫られ断るが、1分間だけ時計を見ているように言われる。1960年4月16日午後3時。やがてスーはヨデ欲望の翼01.jpgィを愛し始める。ヨディはナイトクラブを経営する養母(レベッカ・パン(藩迪華))と暮らしていたが、彼女が部屋に連れ込んだ男を叩き出し、男から取り返した養母のイヤリングの片方を、居合わせたクラブ欲望の翼03.jpgのダンサー、ミミ(カリーナ・ラウ(劉嘉玲))にやる。翌朝、ヨディと一夜を過ごしたミミが部屋を出ると、昨夜彼女と部屋で出会い、一目惚れしたヨディ欲望の翼 (aka A FEI JING JUEN), Carina Lau.jpgの親友サブ(ジャッキー・チュン(張学友))が階段で待っていた。一方、ミミの存在を知って放心状態で夜の町を彷徨うスーを、巡回中欲望の翼es.jpgの若い警官タイド(アンディ・ラウ(劉徳華))が見つけ、心配し彼女を慰める。彼はスーに恋心を抱き、巡回路の公衆電話に電話するように言うが、彼女からの電話は無かった。養母から恋人とのアメリカ移住を告げられたヨディは、実の欲望の翼mages01.jpg母親の住むフィリピンへと旅立つ。残されて悲しむミミのために、サブはヨディに貰った車を売り、彼の後を追うようにとその金を渡す。ヨディが初めて訪ねた母親はフィリピン貴族の娘で、不義の息子である彼とは会おうとしなかった。自暴自棄になった欲望の翼  tony01.jpgヨディは酔いつぶれ、船乗りに介抱されるが、その船乗りはかつてスーを慰めた元警官タイドだった。ヨディは偽造パスポートで渡米しようとしてギャングを殺してしまい、2人は南へと向かう列車に逃げ込むが、車中でヨディがギャングの報復で撃たれ、息を引き取る。その頃ミミはマニラに降り立ち、香港では誰もいない公衆電話のベルが夜に街角に響いていた。そして九龍のアパートの一室では、ギャンブラー(トニー・レオン(梁朝偉))が身支度を整えていた―。

欲望の翼384.jpg ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の監督デビュー作「いますぐ抱きしめたい」('88年)に続く監督第2作の1990年香港映画で、第10回香港電影金像奨で最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞(レスリー・チャン)、第28回金馬奨で最優秀監督賞を受賞した作品。同監督の浮遊感と疾走感の入り混じる語り口と映像美独特のスタイルが確立された原点と言われている作品ですが、2005年以降日本での上映権が消失していて、その間DVDが再リリーズされたりはしていますが、スクリーンでの上映は今回が13年ぶりでした。

レスリー・チャン/カリーナ・ラウ

欲望の翼Maggie Chueng and Leslie Chueng in Days Of Being Wild (1990).jpg 最後にいきなりトニー・レオンが出て来るのは、続編を想定していたためということですが、当時"アイドルスター"だった主要出演者6人が全員"トップスター"になってしまったため予算的に再結集不可能ということで、続編を作ることができなかったとのこと。後に作られた「花様年華」('00年)、「2046」('04年)に役名や設定が一部受け継がれており、この両作品が実質的な続編とされていますが、話そのものは繋がっていません。個人的には、この作品の雰囲気を色濃く継承しているのは、ゲイ・ムービーですが、「ブエノスアイレス」('97年)であるように思います。
マギー・チャン/レスリー・チャン

欲望の翼ages.jpg 脚本もウォン・カーウァイで、フィリピンでヨディとタイドが偶然出会い、「1960年4月16日午後3時」というキーワードで同じ女性(スー)を介した経験があることに互いに気づくところなどは面白かったです。ヨディを巡るスー(マギー・チャン)とミミ(カリーナ・ラウ)のバトルの激しさもなかなかのものでした。こうして男性同士が偶然出会ったり、女性同士が最悪の状況で鉢合わせするのに、男女は行き違ってばかりいる感じだったなあ。

マギー・チャン/カリーナ・ラウ

欲望の翼 days-of-being-wild.jpg ウォン・カーウァイの作風を愉しむと共に、後のスター俳優たちの若き日の演技が楽しめる作品でもあると思います(レスリー・チャンは2003年に自殺。一方、カリーナ・ラウは2008年にトニー・レオンと結婚した)。レスリー・チャンは、同じ破滅型の人間を演じた後の「ブエノスアイレス」に匹敵するか、その上を行く演技で、彼が演じるヨディは、警官から船乗りに転じたタイドが言うように"カス人間"なのでが、それでも女性たちが惚れる―彼の演技はそのことに説得力を持たせているように思いました(演技力と言うより演技センスがいいという感じ)。

トニー・レオン(梁朝偉)・アンディ・ラウ(劉徳華)2005年来日(「インファナルアフェア3 終極無間」のプロモーション)/ジャッキー・チュン(張學友)2008年来日(コンサート)
劉徳華(アンディ・ラウ)梁朝偉(トニー・レオン).jpg ジャッキー・チュン(張學友).jpg

「Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下」2023年7月10日
ルシネマ渋谷宮下.jpg「マギー・チャン レトロスペクティブ」.jpg(●2023年7月10日、「Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下」(2022年12月4日閉館した「渋谷TOEI」のあった渋谷東映プラザ7F・9Fに、Bunkamuraの再開発に伴って2023年4月10日より長期休館に入った「Bunkamuraル・シネマ」が移転して2023年6月16日「Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下」としてオープン)の杮落とし特集「マギー・チャン レトロスペクティブ」で再見した。マギー・チャン出演作9作が組まれた特集だが、チラシの表紙にはこの「欲望の翼」での彼女が使われている。

 この映画のラストで、トニー・レオン演じるカジノディーラーが、天井の狭い部屋の中で身支度をしている様子「欲望の翼」レオン.jpgだけ描かれ、映画が唐突に終わるのはなぜかについては諸説あるようだ。元々はトニー・レオン演じるディーラーが主要なキャラクターとして考えられていて、実際、ウォン・カーウァイは当時、香港で最も危ないエリアと言われた九龍城砦「欲望の翼」欠片.jpgのアパートで何か月も撮影をしたため、トニー・レオンの実質的な降板によってカットされたフィルムは多かったようだ。その一部はYouTubeにアップされていて、トニー・レオン演じるディーラーの部屋にマギー・チャン演じるスーが会いに階段を登って行く場面や、狭い室内で二人が会話をする場面などがある。

 また、1990年4月、主要キャストであるカリーナ・ラウが、黒社会が出資する映画に強制的に出演させられそうになり、彼女が断固として拒絶したところ、報復として拉致されるという事件が起きた。この事件は彼女にとって大きなトラウマとなったが、この時、毅然と対応をしたのが当時カリーナと恋人の関係にあったトニー・レオンであり、後になってカリーナは、彼が自分を守るためにウォン・カーウァイのこの映画を降板したと告白している。一時期、自殺まで考えたというカリーナの精神的な支えとなるたカリーナ・ラウ.jpgめの決意であり、彼は二人で俳優を辞めることも提案したという。ウォン・カーウァイ自身、当時、香港映画界を取り巻く状況に嫌気をさし、黒社会の資金に依存しない映画作りを模索していた。「ここではないどこかへ」―それはトニー・レオンやウォン・カーウァイが痛切に願ったことであり、トニー・レオンの降板と入れ替えにこの映画の主人公となったレスリー・チャンに委ねられることになったのかもしれない。一方、レスリー・チャン演じる、実の母親に面会を拒絶されてフィリピンのジャングル沿いの道を歩くヨディの姿に被るロス・インディオス・タバハラスの「Always in My Heart」の曲には切ない情感があるが、この映画のヨディ像が、母親が事業に忙しく祖母の家に預けられ乳母に育てられたレスリー・チャンの実人生に重なるという人もいる。確かにそうした見方も成り立つかもしれない。)

カリーナ・ラウ/トニー・レオン夫妻

張國榮(レスリー・チャン)/張曼玉(マギー・チャン)/劉嘉玲(カリーナ・ラウ)/劉徳華(アンディ・ラウ)
「欲望の翼」4 .jpg

Los Indios Trabajaras "Always in my heart"
「欲望の翼」●原題:阿飛正傳/DAYS OF BEING WILD●制作年:1990年●制作国:香欲望の翼371c.jpg港●監督・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)●撮影:クリストファー・ドイル●音楽:ロス・インディオス・タバハラスザビア・クガート●時間:97分●出演:レスリー・チャン(張國榮)/マギー・チャン(張曼玉)/カリーナ欲望の翼ド.jpg・ラウ(劉嘉玲)/アンディ・ラウ(劉徳華)/ジャッキー・チュン(張学友)/レベッカ・パン(藩迪華)/トニー・レオン(梁朝偉)●日本公開:1992/03●配給:プレノン・アッシュ●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ2(18-03-15)●2回目:渋谷・Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(23-07-10)(評価:★★★★)

Xavier Cugat "Perfidia"

「欲望の翼」[VHS]
欲望の翼【字幕ワイド版】.jpg

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地球の裏側が舞台だけに、一人でいることの孤独感がひしひしと伝わってくる。

ブエノスアイレス 1997 .jpgブエノスアイレス 00.jpgブエノスアイレス_d15.jpg
 ウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)
ブエノスアイレス [DVD]

ブエノスアイレス_d5.jpg 香港から地球の裏側に当たるアルゼンチンをブエノスアイレス_d11.jpg旅するウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)のゲイのカップルは、それが「やり直す」ための旅行にもかかわらず、イグアスの滝へ行く途中で道に迷って荒野のハイウェイで喧嘩別れしてしまう。一人になったファイは旅費不足を補うためブエノスアイレスのタンゴバーでドアマンとしてブエノスアイレス_d12.jpg働くが、そこへ白ブエノスアイレス 02.jpg人男性とともにウィンが客として現れる。以降ウィンは何度もファイに復縁を迫りその度ファイは突き放すが、嫉妬した男性愛人にケガを負わされたウィンがアパートに転がり込んで来たため、やむなく介護する。ウィンブエノスアイレス 09.jpgとの生活にファイは安らかな幸せを感じるが、ケガの癒えたウィンはファイの留守に出歩くようになり、ファイは独占欲からウィンのパスポートを隠す。一方、ファイは転職した中華料理店の同僚で台湾からの旅行者のチャン(チャン・チェン)と親しくなり、そんなファイのもとからウィンは去っていく。旅行資金が貯まったチャンは南米最南端の岬へ旅立ち、チャンの出発後、ファイは稼ぎのいい食肉工場に転職、旅費が貯まりイグアスの滝へと旅立つ。香港への帰途、ファイは台北のチャンの実家が営む屋台を訪れる―。

ウォン・カーウァイ「ブエノスアイレス」.jpgブエノスアイレス 11.jpg ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の1997年の香港映画で、同年の第50回カンヌ国際映画祭監督賞受賞作品。主演のトニー・レオンは、1998年・第17回香港電影金像奨で最優秀主演男優賞を受賞しています。中華圏の監督による同性愛をモチーフとした映画は、陳凱歌(チェン・カイコー)監督の「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年/香港)やアン・リー監督の「ウェディング・バンケット」(93年/台湾・米)が既にありましたが、「さらば、わが愛/覇王別姫」は1920年代の中国の京劇団が舞台で、「ウェディング・バンケット」はアメリカが舞台、一方、この「ブエノスアイレス」はタイトル通りアルゼンチンが舞台で、最後の方に台湾が出てきます(香港は出てこなかった)。

 ゲイ・ムービーですが、男同士の恋人感情の揺れやぶつかり合いが丁寧かつ生々しく描かれていて、恋愛映画としてもよく出来ているように思いました。監督の狙いも、異性間の恋愛感情と何ら変わることがない普遍性を示すことにあったのではないでしょうか。ただ、やはりゲイ・ムービーということもあって、公開時は男性には敬遠され、そのかわり女性客が押しかけたようです(「シネマライズ」で約10万人を動員し、これは同館の歴代上映作品の観客動員数の第5位にあたる)。

ブエノスアイレス_d17.jpg 撮影は難航したようで、トニー・レオン(梁朝偉)は「同性愛者役はできない」と一旦出演を辞退したものの、「亡父の恋人をアルゼンチンに探しに行く息子の物語」に書き改めた新企画を示されて了承、ところが現地に着いてみるとストーリーは大きく変更されていました(監督に騙された?)。男同士でのラブシーンにはかなり抵抗があり、撮影後に呆然としてしていたそうです。

ブエノスアイレス_de.jpg また、相方役のレスリー・チャン(張國榮)は、映画俳優と人気歌手の掛け持ちで、撮影当時コンサートツアーの予定があり、遅延を重ねた撮影の途中でやむを得ず香港へ帰国してしまい、収拾のつかなくなったストーリーを完結させるために、兵役直前で休業に入る予定だった台湾出身のチャン・チェン(張震)と、香港出身の歌手シャーリー・クワン(關淑怡)が招集されましたが、チャン・チェンが中華料理店でのファイの後輩にあたるチャンの役でかなり重要な役どころで出ているのに対し、シャーリー・クワンの出演シーンは本編ブエノスアイレス_d16.jpgでは1カットも使われていません。チャン・チェンはカンフー俳優でもあり、兵役からの復帰後、アン・リー監督の「グリーン・デスティニー」('00年/中国・香港・台湾レスリー・チャン3.gif・米)などに出演し、近年ではウォン・カーウァイ監督、トニー・レオン主演の武術映画「グランド・マスター」('13年/香港・中国)にも出演しています。レスリー・チャンは「さらば、わが愛/覇王別姫」で既に同性愛者を演じていましたが、2003年に香港の高級ホテル「マンダリン・オリエンタル」から投身自殺を図り、46年の生涯を終えています。

ブエノスアイレス sessi .jpg 元から撮影現場で脚本決めをしたりするところがあるウォン・カーウァイ監督なので、レスリー・チャンが現地に留まっていればストーリー的には違った展開になっていたと思われます。この作品のメイキング映画「ブエノスアイレス 摂氏零度」('99年/香港)によれば、シャーリー・クワンはファイの妻役で登場し、チャンとも絡みがある一方、ウィンとウィンのケガを診察した女医とファイとの間で三角関係になるようなシナリオが用意されていたようです。

ブエノスアイレス 摂氏零度 [DVD]

 結局、ファイはウィンと別れた後、チャンへとその想いを転じましたが、それはあくまでプラトニック・ラブということなのでしょうか(因みにプラトン自身は同性愛者で且つ実践派だった)。この終わり方に美学を感じる人もいれば、ウィンがフラれた形で可哀そうと思う人もいるかもしれません。でも、ファイは常に仕事をしていたのに、ウィンは仕事もしないで、ヒモみたいな暮らしぶりだったからなあ。ヒモだってウチを守るくらいのことはするだろうけれど、勝手に出歩いてファイの気を揉ませていたし、その癖、ファイへの猜疑心や嫉妬心は強かった...。

ブエノスアイレス_d24.jpg こうしたことも含め、全編を貫いているのは、人間は孤独であり、その辛さに耐えられるかという問いかけではないでしょうかか。舞台が地球の裏側だけに、そのことが一層ひしひしと感じられます。そうした中で、一人では生きることが出来ないのがウィンブエノスアイレス ges.jpgで、次第に破滅に向かって行くタイプかも(ラストの方では、男性の愛人を仮想ファイに見立てていた)。一方で意外と逞しいのが中華料理店の後輩のチャンで、先輩の代わりに南米最南端の岬へ行って悩みを捨ててきてあげるからとファイにテープレコーダーブエノスアイレスes.jpgを渡しますが、ファイはテープレコーダーを握りしめるも言葉はなく、涙を流すしかありませんでした。それまで何となく距離を置いてこの映画を観ていたつもりが、このシーンではこちらもブエノスアイレス_d27.jpg泣けました。ファイが仕事に打ち込んできたのは、ウィンとの別離の痛みを忘れるためというのもあったのではないでしょうか(でも忘れられないでいる)。というわけで、チャンは約束通りしっかり南米最南端のエクレルール灯台まで行き('97年1月)、そのファイが"自らの悩みを吹き込んだ"カセットを聴くも、そこにはファイの言葉は無く、泣き声のようなものしか聴こえませんでした。

ブエノスアイレス_d25.jpg 一方のファイも最後には、貯めた金で中古車を買って旅の目的地だったイグアスの滝へ行っており、そこでウィンの不在を再認識しながらも彼との過去を封印したような感じで、更に帰国時には台北に寄って('97年2月。テレビでは鄧小平死去のニュースが伝えられている。この辺りは物語が撮影とリアルタイムになっているようだ)、チャンの実家が営む屋台を訪れ、チャンの写真を一枚盗むことで、「もし会おうと思えば、どこでだって会うことができる」と確信します。こうした行為は何れも自らの過去を整理するための(同時に未来へ向けての再生のための)儀式のように思えました。

花様年華75.jpg そう言えば、「花様年華」('00年/香港)のラストも、トニー・レオン演じる主人公がわざわざアンコールワット(こちらもイグアス同様に観光名所)まで行って、ある人妻女性との過去を封印したように見えました。マギー・チャン演じる当の相手女性はいちいちそんなことをしません。ひとり親として頑張って息子を育てていくのみ。よく女性は失恋旅行をすると言われますが、「ブエノスアイレス」と「花様年華」の2作を観ると、この種の儀式的行為をするのはむしろ男ではないかと思ってしまいます。ファイが、香港で父親の会社の金を盗み勘当されたと思われる、その父親に手紙を書くシーンがありました。人は一人では生きられない、では現実の孤独とどう向き合うか、ということと併せ、自らの過去とどう向き合うかというのも、この作品のテーマかもしれません。
「花様年華」より
チャン・チェン(張震)
ブエノスアイレス チャン・チェン(張震).jpg「ブエノスアイレス」●原題:春光乍洩/HAPPY TOGETHER●制作年:1997年●制作国:香港●監督・製作・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)●撮影:クリストファー・ドイル(杜可風)●音楽:ダニー・チョンほか●時間:96分●出演:レスリー・チャン(張國榮)/トニー・レオン(梁朝偉)/チャン・チェン(張震)/グレゴリー・デイトン/スー・ピンラン(蕭炳林)●日本公開:1997/09●配給:プレノンアッシュ●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ(18-02-17)(評価:★★★★☆)
「ブエノスアイレス」(1997年製作).jpg

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イデオロギー至上主義が人間性を踏みにじる様が具体的に描かれている。

私の紅衛兵時代6.jpg私の紅衛兵時代―ある映画監督の青春.jpg    さらばわが愛~覇王別姫.jpg 写真集さらば、わが愛/覇王別姫.jpg
私の紅衛兵時代 ある映画監督の青春 (講談社現代新書)』['90年/'06年復刻]/「さらば、わが愛覇王別姫」中国版ポスター/写真集『さらば、わが愛覇王別姫』より

陳凱歌(チェン・カイコー).jpg 中国の著名な映画監督チェン・カイコー(陳凱歌、1952年生まれ)が、60年代半ばから70年代初頭の「文化大革命」の嵐の中で過ごした自らの少年時代から青年時代にかけてを記したもので、「文革」というイデオロギー至上主義、毛沢東崇拝が、人々の人間性をいかに踏みにじったか、その凄まじさが、少年だった著者の目を通して具体的に伝わってくる内容です。

紅衛兵.jpg 著者の父親も映画人でしたが、国民党入党歴があったために共産党に拘禁され、一方、当時の共産党員幹部、知識人の子弟の多くがそうしたように、著者自身も「紅衛兵」となり、「毛沢東の良い子」になろうとします(そうしないと身が危険だから)。

 無知な少年少女が続々加入して拡大を続けた紅衛兵は、毛沢東思想を権威として暴走し、かつて恩師や親友だった人達を糾弾する、一方、党は、反国家分子の粛清を続け、"危険思想"を持つ作家を謀殺し、中には自ら命を絶った「烈士」もいたとのことです。

 そしてある日、著者の父親が護送されて自宅に戻りますが、著者は自分の父親を公衆の面前で糾弾せざるを得ない場面を迎え、父を「裏切り」ます。

 共産党ですら統制不可能となった青少年たちは、農村から学ぶ必要があるとして「下放」政策がとられ、著者自身も'69年から雲南省の山間で2年間農作業に従事しますが、ここも発狂者が出るくらい思想統制は過酷で、但し、著者自身は、様々の経験や自然の中での肉体労働を通して逞しく生きることを学びます。

 語られる数多くのエピソードは、それらが抑制されたトーンであるだけに、却って1つ1つが物語性を帯びていて、「回想」ということで"物語化"されている面もあるのではないかとも思ったりしましたが、う~ん、実際あったのだろなあ、この本に書かれているようなことが。

紅いコーリャン [DVD]」張藝謀(チャン・イーモウ)監督
紅いコーリャン .jpgチャン・イーモウ(張藝謀).jpg 結果的には「農民から学んだ」とも言える著者ですが、17年後に映画撮影のため同地を再訪し、その時撮られたのが監督デビュー作である「黄色い大地」('84年)で、撮影はチャン・イーモウ(張藝謀、1950年生まれ)だったとのこと。

 個人的には、チャン・イーモウ監督の作品は「紅いコーリャン」('87年/中国)を初めて観て('89年)、これは凄い映画であり監督だなあと思いました(この作品でデビューしたコン・リー(鞏俐)も良かった。その次の作品「菊豆<チュイトウ>」('90年/日本・中国)では、不倫の愛に燃える若妻をエロチックに演じているが、この作品も佳作)。 
               
童年往事 時の流れOX.jpg童年往事 時の流れ.png童年往時5.jpg その前月にシネヴィヴァン六本木で観た台湾映画「童年往時 時の流れ」('85年/台湾)は、中国で生まれ、一家とともに台湾へ移住した"アハ"少年の青春を描いたホウ・シャオシェン(侯孝賢、1947年生まれ)監督の自伝的作品でしたが(この後の作品「恋恋風塵」('87年/台湾)で日本でも有名に)、中国本土への望郷の念を抱いたまま亡くなった祖母との最期の別れの場面など、切ないノスタルジーと独特の虚無感が漂う佳作でした(ベルリン国際映画祭「国際批評家連盟賞」受賞作)。
【映画チラシ】童年往時/「童年往事 時の流れ [DVD]」 (パンフレット)

坊やの人形.jpg ホウ監督の作品を観たのは、一般公開前にパルコスペースPART3で観た「坊やの人形」('83年/台湾)に続いて2本目で、「坊やの人形」は、サンドイッチマンという顔に化粧をする商売柄(チンドン屋に近い?)、家に帰ってくるや自分の赤ん坊を抱こうとするも、赤ん坊に父親だと認識されず、却って怖がられてしまう若い男の悲喜侯孝賢.jpg劇を描いたもので、台湾の3監督によるオムニバス映画の内の1小品。他の2本も台湾の庶民の日常を描いて、お金こそかかっていませんが、何れもハイレベルの出来でした。

坊やの人形 [DVD]」/侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督

 両監督作とも実力派ならではのものだと思いましたが、同じ中国(または台湾)系でもチャン・イーモウ(張藝謀)とホウ・シャオシェン(侯孝賢)では、「黒澤」と「小津」の違いと言うか(侯孝賢は小津安二郎を尊敬している)、随分違うなあと。

陳凱歌監督 in 第46回カンヌ映画祭 「さらば、わが愛~覇王別姫 [DVD]」 /レスリー・チャン(「欲望の翼」「ブエノスアイレス」)
覇王別姫第46回カンヌ映画祭パルムドール.jpgさらば、わが愛/覇王別姫.jpg覇王別姫.jpg「さrあばわが愛」チェン.jpg 一方、チェン・カイコー(陳凱歌)監督の名が日本でも広く知られるようになったのは、もっと後の、1993年・第46回カンヌ国際映画祭パルム・ドール並びに国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞作「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年/香港)の公開('94年)以降でしょう。米国でも評価され、ゴールデングローブ賞外国語映画賞、ニューヨーク映画批評家協会賞外国語映画賞などをを受賞しています(これも良かった。妖しい魅力のレスリー・チャン、残念なことに自殺してしまったなあ)。
さらば、わが愛/覇王別姫 4K修復版Blu-ray [Blu-ray]」(2023)
「さらば、わが愛/覇王別姫」00.jpg(●2023年10月12日、シネマート新宿にて4K修復版を鑑賞(劇場で観るのは初)。張國榮(レスリー・チャン)と鞏俐(コン・リー)が一人の男を巡って恋敵となるという、ある意味"空前絶後"的映画だったと改めて思った。)

 本書も刊行されたのは'90年ですが、その頃はチェン・カイコー監督の名があまり知られていなかったせいか、一旦絶版になり、「復刊ドットコム」などで復刊要望が集まっていたのが'06年に実際に復刻し、自分自身も復刻版(著者による「復刊のためのあとがき」と訳者によるフィルモグラフィー付)で読んだのが初めてでした。

 「さらば、わが愛/覇王別姫」にも「紅いコーリャン」にも「文革」の影響は色濃く滲んでいますが、前者を監督したチェン・カイコー監督は早々と米国に移住し(本書はニューヨークで書かれた)、ハリウッドにも進出、後者を監督したチャン・イーモウ監督は、かつては中国本国ではその作品が度々上映禁止になっていたのが、'08年には北京五輪の開会式の演出を任されるなど、それぞれに華々しい活躍ぶりです(体制にとり込まれたとの見方もあるが...)。


「中国問題」の内幕.jpg中国、建国60周年記念式典.jpg 中国は今月('09年10月1日)建国60周年を迎え、しかし今も、共産党の内部では熾烈な権力抗争が続いて(このことは、清水美和氏の『「中国問題」の内幕』('08年/ちくま新書)に詳しい)、一方で、ここのところの世界的な経済危機にも関わらず、高い経済成長率を維持していますが(GDPは間もなく日本を抜いて世界第2位となる)、今や経済界のリーダーとなっている人達の中にも文革や下放を経験した人は多くいるでしょう。記念式典パレードで一際目立っていたのが毛沢東と鄧小平の肖像画で、「改革解放30年」というキャッチコピーは鄧小平への称賛ともとれます(因みに、このパレードの演出を担当したのもチャン・イーモウ)。

 中国人がイデオロギーやスローガンに殉じ易い気質であることを、著者が歴史的な宗教意識の希薄さの点から考察しているのが興味深かったです。
 
童年往来事ド.jpg「童年往時/時の流れ」●原題:童年往来事 THE TIME TO LIVE AND THE TIME TO DIE●制作年:1985年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)●製作:徐国良(シュ・クオリヤン)●脚本:侯孝賢(ホウ・シャオシェンシネヴィヴァン六本木.jpg)/朱天文(ジュー・ティエンウェン)●撮影:李屏賓(リー・ピンビン)●音楽:呉楚楚(ウー・チュチュ)●時間:138分●出演:游安順(ユーアンシュ)/辛樹芬(シン・シューフェン)/田豊(ティェン・フォン)/梅芳(メイ・フアン)●日本公開:1988/12●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(89-01-15)(評価:★★★★)
シネヴィヴァン六本木 1983(平成5)年11月19日オープン/1999(平成11)年12月25日閉館

坊やの人形 <HDデジタルリマスター版> [Blu-ray]
坊やの人形 00.jpg坊やの人形 00L.jpg「坊やの人形」(「シャオチの帽子」「りんごの味」)●原題:兒子的大玩具 THE SANDWICHMAN●制作年:1983年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)/曹壮祥(ゾン・ジュアンシャン)/萬仁(ワン・レン)●製作:明驥(ミン・ジー)●脚本:呉念眞(ウー・ニェンジェン)●撮影:Chen Kun Hou●原作:ホワン・チュンミン●時間:138分●出演:陳博正(チェン・ボージョン)/楊麗音(ヤン・リーイン)/曽国峯(ゾン・グオフォン)/金鼎(ジン・ディン)/方定台(ファン・ディンタイ)/卓勝利(ジュオ・シャンリー)●日本公開:1984/10●配給:ぶな企画●最初に観た場所:渋パルコスペース Part3.jpg渋谷シネクイント劇場内.jpgCINE QUINTO tizu.jpg谷・PARCO SPACE PART3(84-06-16)(評価:★★★★)●併映:「少女・少女たち」(カレル・スミーチェク)
PARCO SPACE PART3 1981(昭和56)年9月22日、演劇、映画、ライヴパフォーマンスなどの多目的スペースとして、「パルコ・パート3」8階にオープン。1999年7月~映画館「CINE QUINTO(シネクイント)」。 2016(平成28)年8月7日閉館。

「さらば、わが愛/覇王別姫」(写真集より)/「さらば、わが愛/覇王別姫」中国版ビデオ
『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993) 2.jpgさらばわが愛~覇王別姫.jpg「さらば、わが愛/覇王別姫」●原題:覇王別姫 FAREWELL TO MY シネマート新宿2 .jpgCONCUBI●制作年:1993年●制作国:香港●監督:陳凱歌(チェン・カイコー)●製作:徐淋/徐杰/陳凱歌/孫慧婢●脚本:李碧華/盧葦●撮影:顧長衛●音楽:趙季平(ヂャオ・ジーピン)●原作:李碧華(リー・ビーファー)●時間:172分●出演:張國榮(レスリー・チャン)/張豊毅(チャン・フォンイー)/鞏俐(コン・リー)/呂齊(リゥ・ツァイ)/葛優(グォ・ヨウ)/黄斐(ファン・フェイ)/童弟(トン・ディー)/英達(イン・ダー)●日本公開:1994/02●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画(評価:★★★★☆)●最初に観た場所(再見)[4K版]:シネマート新宿(23-10-12)
「さらば、わが愛/覇王別姫」0.jpg

「さらば、わが愛/覇王別姫」図1.jpg

チャン・フォンイー、コン・リー、レスリー・チャン.jpgさらば、わが愛 覇王別姫 鞏俐 コン・リー.jpg鞏俐(コン・リー)in「さらば、わが愛 覇王別姫」(1993年・二ューヨーク映画批評家協会賞 助演女優賞受賞)
   
張豊毅(チャン・フォンイー)、鞏俐(コン・リー)、張國榮(レスリー・チャン)in 第46回カンヌ国際映画祭フォトセッション

レスリー・チャン in「欲望の翼('90年)」/「ブエノスアイレス」('97年)
欲望の翼01.jpg ブエノスアイレス 00.jpg

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カタルシス効果は弱いが、デカダンスな雰囲気を醸す映像はスタイリッシュ。

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「花の影」張國榮(レスリー・チャン)/鞏俐(コン・リー)/林健華(リン・チェンホア)
「花の影」1.jpg「花の影」2.jpg「花の影」3.jpg 富豪に嫁いだ姉を頼り、蘇州にやってきた少年・「花の影」コンり―.jpg忠良(チョンリァン)。そこでは当主の愛娘・如意(ルーイー)を始め、皆が阿片に酔いしれていた。退廃した空気の中、最愛の姉に弄ばれ絶望した忠良は屋敷を飛びだす。時は過ぎ、1920年代の魔都・上海。心に傷を負って女性を愛せなくなった忠良(張国栄(レスリー・チャン))は、人妻を誘惑して金品を巻き上げる上海マフィア配下のジゴロとなっていた。そんな彼に、マフィアのボスが故郷の女富豪を誘惑する様に命令を下す。彼女こそ、美しく成長した如意(鞏俐(コン・リー))だった。様々な思惑を交差させながら、二人はいつしか本気で愛し合うようになるが―。
花の影 [Blu-ray]
「花の影」00.jpg「花の影」9.jpg 1996年公開作で、陳凱歌(チェン・カイコー)監督のもと、「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年/中国)に続いて張国栄(レスリー・チャン)と鞏俐(コン・リー)が再び組んだメロドラマ。1920年代の上海と蘇州を舞台に退廃的で破滅的な男女の愛を描いています。

 「さらば、わが愛/覇王別姫」に比べ、政治が背景に後退し、恋愛メロドラマ的要素が前面に出ています。「さらば、わが愛/覇王別姫」で一人の男性を巡って愛を争ったレスリー・チャンとコン・リーが、今度は愛し合う関係になっていますが、と言っても陳凱歌なので一筋縄ではいきません。レスリー・チャン演じる忠良は、幼い頃に姉夫婦に性的虐待を受け、「心が死んでいて」人を愛せない性質になってしまっています。

 最後はコン・リー演じる如意にそのことをズバリと言われ、彼女は別の男と結婚することに。そこで忠良とった行動は―。う~ん、ちょっとやり過ぎという感じ。他人のモノになるならいっそ自分が...ということでしょうが、彼の愛が結局はエゴでしかないことをよく表していると言えばそうだけれども、後味があまりよくない(結局、姉の夫、つまり如意の父親も彼がヒ素を使って廃人にしたのか)。

「花の影」4.jpg というわけでカタルシス効果は弱いですが、デカダンスな雰囲気を醸す映像はスタイリッシュでもあります。室内シーンが多いせいか、クリストファー・ドイルっぽくはなかったかもしれませんが、この映像美を味わうだけでも価値はあるように思いました。

 考えてみれば、香港のレスリー・チャンと中国のコン・リーと、如意の家に養子に行く端午(ドァンウー)を演じた台湾の林健華(リン・チェンホア=ケビン・リン)の3か国スター"揃い踏み"。その中でも端午の変貌が興味深く、特にラストは"大変貌"を遂げていました(まさか頼りない雰囲気だった彼が最後に〇〇になるとは(苦笑)。血統主義の中国らしいと言えばそうだが)。

鞏俐 風月.jpg周迅 風月.jpg周迅(ジョウ・シュン).png 当時30歳のコン・リーが奇麗。忠良が行くナイトクラブの垢抜けない少女(アヘン中毒者?)は周迅(ジョウ・シュン)だったのかあ。婁燁(ロウ・イエ)監督の 「ふたりの人魚(蘇州河)」(1998年撮影)の2年前、20歳の頃ということになりますが、全然分からなかったです。

鞏俐(コン・リー)/周迅(ジョウ・シュン)

「花の影」1.jpg「花の影」5.jpg「花の影」●原題:風月(英:TEMPTRESS MOON)●制作年:1996年●制作国:香港・中国●監督:陳凱歌(チェン・カイコー)●製作:湯君年(タン・チュンニェン)/徐楓(シュー・フォン)●脚本:舒琪(シュウ・チー)●撮影: クリストファー・ドイル(杜可風)●音楽: 趙季平(チャオ・チーピン)●原案: 陳凱歌/王安憶(ワン・アンイー)●時間:128分●出演:張國榮(レスリー・チャン)/鞏俐(コン・リー)/林健華(リン・チェンホア)/何賽飛(ホー・サイ新文芸坐2024年02月26日.jpgフェイ)/呉大維(デヴィッド・ウー)/謝添(シェ・ティェン)/周野芒(ジョウ・イェマン)/周潔(ジョウ・ジェ)/葛香亭(コー・シャンホン)/周迅(ジョウ・シュン)●日本公開:1996/12●配給:日本ヘラルド映画(評価:★★★☆)●最初に観た場所[4K版]:池袋・新文芸坐(24-02-26)
新文芸坐(2024年2月26日撮影)

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